池袋二郎レビュー


元蛭海麺バーのホーム、池袋二郎に行ってきた。
まず、断っておかなくてはならない。むしろ懺悔に近い。僕は大塚に引っ越しておきながら、大塚北口にある「ぼたん」にばかり足を運んでおり、実は新たなホームとなり得る池袋二郎はまだ食していなかったのだ。大学時代から数回池袋に来ては、時には時間がなかったり、また時には定休日に当たったりと、まだ一度も食してはいなかった。
こちらに来て約二ヶ月経ち、徒歩圏内にあるという、夢のような立地条件にも関わらず、ようやくご挨拶に伺った。

八時過ぎに到着し、かなりの行列が出来ていたが、まずは回転率の高さに驚かされた。案内役に回る店員が必ずおり、順番を統制、基盤のコントロールに当たる。食券は購入後すぐに回収され、順番が来るとオーダーの再確認が行われる。なるほど、これは鉄壁のディフェンスと言えるだろう。

見る見るうちに列は短くなり、三十分もしない内に席に案内される。他の二郎と違い、店内はかなり静かだ。リーダーシップを完全に我が物にした案内役の店員が、静かに声をかける。

「トッピングは?」

と。

気付けば自分も統制される側の一人。小さく「ヤサイ、ニンニク、カラメ」と返事をする。全増しと言えなかった。いつもとは違う。しかし不快感とは違った、クールな温度が流れていた。

一口啜るスープは、やはり系列だけあり、歌舞伎町で味わったそれとよく似ている。歌舞伎町が「当たり」の時の味だ。浮かぶ脂は歌舞伎町よりも乳化している。悪くない。

続いて麺である。歌舞伎町よりも少し太いこの麺の風味、どこかで味わったものとよく似ている。神保町やひばりが丘のような、新店のような上品さではない。多摩二郎とも違う。どちらかと言えば高田馬場だろうか。否。追憶の彼方でつかみ取った思い出のカケラは、そう、探し求めていた二郎時代の吉祥寺だった!

押し寄せる涙をこらえながら、僕は唐辛子を闇雲に降り注いだ。まだだ、まだ早い。表面が紅く染まり切るまでは、手を止める訳には行かない。これは、吉祥寺二郎の生まれ変わりなのだろうか!?

とうとう振り続ける手の動きが止まった。今だ、と全てをかき混ぜる。口に運ぶ。美味い。
しかし、ノスタルジーが蘇ることはもうなかった。これは似て非なるものであり、やはり、スープや豚は吉祥寺とはまた違うものだった。

だが、僕はここで肩を落とすわけではなかった。これが、池袋の味だった!
絡む脂が、懐かしい香りのする麺と紡ぎ出す、絶妙なハーモニーに、僕は聴き入った。ヤサイとのバランスも良い。ゆで加減は好みのシャキシャキ感の残るもの。

歌舞伎町とのはよく似ているのだが、そのどれもが少しずつ違う。
スープの脂のバランスがよく、ヤサイの硬さ、盛りもいい。豚はあまり評価には値しなかったが、さっぱりとしていて、トータルで見ると良い。そして香るノスタルジックな麺である。

評価の割れる池袋店。たまたま当たりの日だったのかも知れないが、美味かった。

食を終え、明るい気分に戻る。完璧なディフェンスにより統制されているこの店舗も、やはり、二郎だった。食べ終わると店員が机を拭きに来るようだったが、いつも通り、台ふきんを手に机を拭く。後ろから「ありがとうございます」の大きな声が店内から聞こえる。デレたのか!?

静まりかえった店内に、僕はいつも通り大きな声で元気に挨拶をした。

「ごちそうさま」

yngw